MGC のチーフ1型です。相当に古いモデルガンで、この個体も崩壊寸前です。
右は、丸ごとコピー品のコクサイ製です。珍しいグリップが付いています。
MGC チーフの登場は、かなり古くて1963年(昭和38年)です。
当時、米国キャップガンのコピーから初めて抜け出し、ワルサーVP2 を発表したばかりのMGC にとっては、オリジナル作品・第2弾です。ワルサーVP2 が、タニオアクションなのに対して、日本初のリボルバーは、シングル、ダブル・アクションを備えた本格的なものとしてデビューしました。
この写真のMGC の個体は、トリガーガードが折れていたのを接着剤でくっつけています。トリガーガードは、折れたときに変形しているようです。すこし楕円度がきつくなっているように思えます。
これはインターネットの販売サイトから取ってきた実銃写真ですが、フラットラッチで5スクリューの、オールドチーフモデルです。たいいへん珍しいです。MGC は、このオールドタイプをモデルアップしていると思われます。
新登場!
1963年11月号のGun 誌広告です。当時、MGC は製造のみで販売は各商社が行っていました。マルホコルトは、このあと堀内商店へ名前を変えます。
ちなみに同広告の右のページには、新製品第2弾のワルサー・ターゲットが載っています。このモデルは、弾が発射できたようで、すぐに発禁になりました。
これが第2弾ということは、VP-2 が第一弾だったのでしょう。右上には、ヒューブレー改造の MGC ガバメントらしき物が掲載されています。
チーフ・その後
MGC は、1969年に新設計でチーフを発売します。私は2型と呼んでいます。
リバウンド機構を取り入れ、本格的なモデルガンになりました。
2型は、トリガーにピンがありますので容易に他社製と区別できます。
トリガーガード形状など1型によく似ています。
コクサイの方も同じく1969年に内部機構を一新したモデルを発売します。
サイドプレート割りなど1型と同じですがトリガー後方のネジが一つありません。
私は2 型と呼んでいます。
今度のモデルは、丸ごとコピーではなく同年にコクサイから発売されたミリタリー&ポリスと同じ機構を採用しています。1 型とは、シリンダーストップの入る溝で容易に区別できます。
コクサイは、このあとスクエアバットの3型、完璧なM36 と合計4回もモデルアップします。
MGC、コクサイの識別
MGC とコクサイを比べてみましょう。
と、いっても元は同じ設計です。これは、MGC 下請けの十条金型が無断で製造しコクサイが販売したものなので同じ設計となっています。十条金型が仕組んだものか、コクサイの荒井新一郎氏が持ちかけたものかは知りませんが、とにかくとんでもない悪行です。これらは、MGC がブローニングを住民票提示しないと販売しないという強烈な主張からスタートした日本トイガン史の暗黒部分です。
この事件のことは、1966年発行のMGC 機関誌ビジェール3号を参考にしました。
刻 印
右のMGC 製にはSW/4 と入っていますが、これはおそらくMGC 社内での開発番号でしょう。S&W の4番目だったのでしょう。1〜3は、日の目を見ていません。
左のコクサイ(インターナショナル・ガンショップINT) にも全く同じ刻印が入っています。こんな所まで真似しなくてもいいようですが・・。コクサイのコピー品には、ここにまったく刻印の入っていないものも多く見かけます。
ボルト
シリンダーを止めるボルトにバネの入る溝が切ってある方がMGC です。
ハンマースパー形状も少し違いが見られます。MGC のほうが垂れ下がりが大きいです。
ヨーク
一部のコクサイ製品にはヨークに穴が開けられていて下側にはボールが埋め込まれています。これは、エジェクターロッドのガタを取るものだと思います。
写真右の二つはコクサイとMGC です。
サムピース
右側2個がコクサイ製ですが、真ん中のサムピースは、溝の本数が少ないので、センチニアルのパーツではないかと思います。
メカニズム
右のMGC 製は、メインスプリングが折れているため2本のスプリングに変更されています。
ユニークなメカは、MGC の小林氏が作り上げたものだと思います。シアを使用するもので、 良く出来ています。日本初のDAリボルバーですから、そうとうに苦労を重ねたと思います。それで SW/4 というナンバーなのではないでしょうか?これほどの汗の結晶を、丸ごとコピーされたらたまりません。
この、シアーでハンマーを止める方法は、CMC のダイアモンドバックにも採用されています。CMC の方は丸ごとコピーではありませんが、発想は同じものです。ちなみにCMC のダイアモンドバックもコクサイとマルゴーが丸ごとコピーしています。お金が得られるのなら、何やっても良いんだという法則です。
MGC チーフのハンドが左です。右は同センテニアルのものです。センテニアルでは、シリンストップが独立して、より実物に近くなったためチーフ1型のようにシリンダストップを兼務したハンドでは、なくなりました。
シアの仕組み
写真はコクサイのモデルですが、全く同じ構造なのでMGC メカをこれで解説します。
シアは、レストアパーツです。ここはすぐに折れるので完全品を私は見たことがありません。
ダブルアクション
ハンマーの軸穴は楕円になっていて、普段は右向きにテンションがかけられているので、楕円の左側を接点として動きます。ハンマー打撃後、トリガーが戻ってくるために、ハンマーを 左側に押しのけます。このときに楕円の役目でハンマーがズレてトリガーが元の位置に戻ることができます。
シングルアクション
コックによりハンマーは、シアにひっかけられます。撃発のためにトリガーを引くと、ハンドが上昇し、ハンドの下部がシアを持ち上げ、おかげでシア後部のハンマーとのかかりが外れて 撃発となります。
参考:オールドS&W
ハンマーの後ろ側にシアとの掛かりを持ってきたのは、大昔のS&W でも行われていたのですね、パテント図を見て知りました。 まさか、小林さんはこのことを知っていてこの方式を採用したのでしょうか?よく分かりませんが・・・。
原型写真?
匿名様から珍しい写真をいただきました。有難うございます。おそらく鉄製の原型ではないでしょうか? フレームの形なんか製品版とは違っています。
これらの写真は、記事の上の方に載せたマルホコルトの広告写真の 原版ですね。
左上の写真をようく見ると、ハンマーの裏側にシアへ引っかかるギザギザがありません。と、いうことはこの写真は、ハンマーピンの長円で リバウンド動作を行うダブルアクションオンリーのモデルなのでしょう。右下のメモを見るとスタンダードBモデルの予定だったようです。
左上の写真の下書きに設計図なのかスケッチなのか、フリーハンドによるイラストが見て取れます。小林さんの手によるものでしょうか? とても上手です。
MGC ニュース
MGC ニュース 1963年6月号(昭和38年)です。ターゲットとSWは店頭販売しないと書いていますから何やら不都合があったのでしょうか?
ターゲットは、のちに発禁モデルとされてしまいますのでその予兆でもあったのかな?
パッケージ
レプリカですが、パッケージを買いました。なかなか良いデザインだと思います。
MGC は、何かにつけデザインには凝っていましたね。
おわりに
たいへんユニークな機構のモデルガンでした。当時の亜鉛強度から考えても このシア式機構は理にかなっていると思います。
ただ、レストアして思ったのですが、MGC のDA リボルバーはコンマ数ミリの調整が必要で難しいです。このモデルガンもリバウンドが思うようになりませんでした。
日本初のオートと、リボルバーのモデルガンを発売した老舗MGC もその後、荒井氏がまとめる高級玩具組合との対立で販売を自社店舗でしか行わなくなり、商域を狭めます。
コクサイ製の方が多く現存することはMGC 関係者はたいへん不愉快でしょうが、おかげでMGC 設計のユニークさと、この時代に何があったのかを知る手がかりになっている事は、大いなる皮肉と言えるでしょう。
補足
高級玩具組合のカタログVol.2 にコクサイのチーフ用のターゲットグリップの写真がありました。
おまけ