ナゾの呼び名MJQ
MGC 最後の金属製オートのモデルガンとしてGM-3 とともに1976年頃に発売されています。
翌年の52年規制によって販売できなくなりましたので、今ではGM-3 とともに幻の部類に配属されています。
MJQと言う名前も不思議な物です。MGC 会長・神保氏の著書からはモダンジャズカルテットから命名したと書かれています。モダンジャズカルテットとは 4人組のジャズバンドで、神保氏や設計者である六人部氏の青春時代に大流行したそうです。
P−38・MJQのスライドにも箱にもくっきりとMJQと書かれていて、これが何かしら大きな意味合いを持って付けられた物であろうと 想像されます。未だ正確なことは判っていないのですが、勝手な想像をしてみました。
モデルガンダイジェストというムック本の中に小林氏へのインタビューが載っています。その中で小林さんはMJQ のことをブランドと呼んでいます。 そう捕らえると納得がいきますね。つまり今までのMGC 製品は小林さんからの案を神保氏が許可して発売になっていたのですが、MJQ ブランドは会長−六人部氏 のラインでの製品に付けられた物でしょう。幻に終わりましたが、第2号はミリタリー&ポリスだったそうです。製品のすべてが小林氏の頭から出ていたMGC も このころは大きくなり、他の設計者もいて、とうとう会長までが製品企画に乗り出したんですね。と、いうことは小林さんと確執でもあったのかな?? 以上はあくまで自分の想像です。
ハードとソフト
MJQは、おおむね名品とされていますが、そう言っている人はMJQ 本体を持っていない人が多いです。逆に所持している人は、たいした物ではないと 言う人が多いです。これは、このモデルガンをハード面から見るかソフト面から見るかによって変わります。 ハードウエアから言うと、CMCとほぼ同じ物で作動も悪くリアルさも若干欠けることから大したことないとも見えます。一方、ソフト面から見ると、モデルガン界を二分する大親分である六人部氏と小林氏が二人とも関わった歴史的な貴重なモデルだと言えます。
写真は、上がCMC で下がMJQ です。同じ六人部氏の設計です。ほぼ同じ形をしていますが、シアバー形状が大きく作り変えられています。
これも想像なのですが、実物どうりの六人部氏の案を小林氏が丈夫な機構に変えさせたものだと思っています。また、写真にはバレル固定用のネジ穴も見られます。
ブローバックモデルガンを知り尽くした小林氏による安全強化策だと思います。
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また、証拠も何もないのですがトリガーガード内側上部がダルマ型のものが六人部氏の好みで、ストレートが小林氏の好みではないかと推察しています。
メ カ
↓クリック拡大します。ブローバックのためにリコイルスプリングは一本になっています。写真に見える左側のミゾは、ふさがれています。 バレル下面に追加された固定ネジ用の凹が見られます。ブローバックはスライドを下げる力ですが、同時にバレルを前に出す力も発生しますので 補強のために施されたものでしょう。
発火方式はガバメントにも見られる撃針式で一見するとセンターファイアですがカートの上の方を撃つ方式です。 そのため、残弾インジケータは省略されています。
CMC では可動式であったエジェクターは、ネジで強固に固定されるものとなっています。 ここにも小林氏の安全志向を見る思いがします。
残念ながら、ご覧のようにスライドカバーは後方の撃針のみで支えられていますのでカバーが浮いてしまいます。
凝ったパーツ
シア、トリガー
やけに凝ったシアーです。CMC の場合はロストワックス工法による一体鋳造ものでしたが、MGC の物はスリーブやカムを圧入した
非常に手間のかかる丈夫なものになっています。ここまでやるか?って感じです。トリガーの軸穴はCMC と同様にスリーブが入っています。
手作りハンマー?
2個ともMJQ ですが、上のものはシリアルが70番代、下の物は500番代です。外観は同じものですが、バラすと ハンマー形状に違いが見られます。このハンマーに関しては、右写真のモデルガングラフィティというムック本に六人部氏のインタビュー記事が載っています。
正月明けに販売しなくてはならないのに外注に出していたハンマーが間に合わなくなり、六人部氏が元旦から削り出しで ハンマーを作ったとあります。写真の左側のものがひょっとしたら手作りのハンマーかもしれません。
左のものは、ハンマー内のピンをポンチでカシメてバラせないようになっています。手間がかかっていますね。ナゾの刻印svw44
CMCのP38は、モーゼル社の戦争中暗号であるbyf 刻印の44でしたが、MJQは同じモーゼル社のそのあとの暗号名であるsvw の44 になっています。友人から教えていただいたのですが、実銃のsvw刻印には44は、存在しないそうです。存在するものは、svw45のみだそうです。byf からsvw に変わるころに44刻印が少数存在したとの説もあるようですが、証拠の写真は見当たりません。フェイクも多いので 現状では存在しないと言われています。
その、超珍しい刻印をわざわざ六人部氏が選んだのには、何か訳でもあるのでしょうか?
ひょっとしてご本人はCMCの取材の際に svw44刻印の物を目にしたのでしょうか?
と、言うのもCMCの試作品も svw44刻印だったからです。
写真は、1971年10月号(昭和46年)のGun 誌のCMC広告です。ステンとともに新製品のP38の試作品が載っています。アップ写真で判るようにsvw44刻印です。 しかし販売に当たっては存在が認められているbyf 刻印に変更されています。六人部氏は、どうして存在しない刻印を使用したのでしょうか?44と言う数字が好きだったのでしょうか? だとしたらbyf刻印の方が合っています。svwという字並びが好きだったのでしょうか?なんだかそうとも思えません。 想像を飛躍させると、フェイクかもしれませんが、実銃の取材でsvw44刻印を見たのではないでしょうか?その時に超珍しいと教えてもらって 特別な刻印だと捉えたのかもしれません。
ちょっと脱線しますが、写真のようにCMCのp38は、46年規制の直前に発売されたため、黒いガス抜けタイプがありました。すぐに規制が来ましたので 少数しか売られていません。私も知りませんでしたが、写真を拝見させていただいたことがあります。紙箱の内側は発泡ではなく赤の布張りがなされていました。
あまり考えたくないパターンもありえます。それは、MGC からの要請にCMC の原型をそのまま持っていった・・・ナンテことは??
まぁ、エキスト形状が違いますのでそれはなかったと思いますが、 色々考えるのも楽しいものです。
他製品と比較
MGC のタニオアクションのP38 と並べています。タニオの方は、もっとサイズが小さく作られているのかと思いましたが、案外良い線行っていますね。 タニオの方もP38 の味が出ています。↑クリック拡大します。
右から全部六人部氏原型の中田、CMC、MJQを並べています。
矢印のように中田ではそこそこにグリップフレームから出ていた切削の段差部分ですが、後年になるに従って大きくなっていることが判ります。 この部分は、実銃ではグリップギリギリに切削されている物がほとんどです。したがって六人部氏の形は実銃と、うり二つではありません。 わざわざグリップから離してデザインされています。 この方が格好良いと思った六人部氏の感性によるものでしょう。世間では六人部氏を実銃と、うり二つに作る職人のように言われていますが、このデザインから見ると、 そうではなくって自分の作品として自分の感性でモデルガンの原型を製作していた人だったのだと思います。
↑ちょっと待ったぁ!
上記のように「うまく、まとまったな・・」と思っていたところ、友人からメールを頂きました。中田やCMCの原型では明らかに切削が深いのに製品で変えていると言うことは強度の問題ではないかというお話でした。
裏付けとして、CMCの原型写真に使用されているグリップはスプリーベルク社製の実物グリップと思われます。一般的な AEG社製より溝が1本 少ない事で判ります。それがぴったりと嵌まっていると、いうことはフレーム内側の処理も実銃と同じ加工がなされていると言うことです。 ところが、製品版のCMC・P38では、実物グリップも嵌まらないし実物マガジンも入れられません。ということは、フレームの肉抜きが小さくなった = フレームが太くなった。ということで強度を増したと思われます。それに伴いトリガーガード付け根を補強した結果ではないだろうか、とのご指摘を頂きました。
うむっ、鋭い指摘ですね、あそこの形状は中田の頃から見られますので中田モデルを開発中の作動テストの際にトリガーガード付け根が 折れてそこを補強した形に変更されたのかもしれませんね。だからのちのCMC、MJQも補強タイプに作った・・納得いく論理展開です。 貴重な、ご意見有難うございます。右の写真はクリック拡大します。MJQと実物フレーム写真を並べています。
実物よりもフレームの柱は0.5mmくらい大きく見えますが写真ですので何とも言えませんが・・。
スライドストップ形状の?
これまた友人からの指摘ですが、スライドストップが戦中モデルは、段差が付いた形なのに戦後タイプは付け根が大きくてフラットな形状に なっています。六人部氏のモデル化では、実物取材をしていないのではないかと思われる中田製は戦中タイプで、実物を取材したのではないかと思われる CMCは戦後タイプが付いています。と、いうことは六人部氏は戦後のモデルを見たのでしょうか??すこしナゾです。
→写真は拡大できます。
CMCとほぼ同じ大きさなので、スライドを入替えてみました。バレルは入れられませんでした。
トリガーガードをしっかり見ないと、どっちがとっちだか判らなくなります。
刻 印
コマーシャル版
コマーシャル版のシリアル番号は右側にあります。↑クリック拡大
MJQにコマーシャル版が存在していたのは、知りませんでした。オーナー様、見せていただき有難うございます。 初め見たときには、CMCと勘違いしてしまいました。おぉっ、恥ずかしい・・。
刻印はMGC お得意のKal表示ですね。 紙箱はミリタリーと同じドイツ軍兵士の物です。
↑クリック拡大
こりゃまた珍しいチラシの写真を頂きました。有難うございます。
イラストの感じが、なかなか良いですねぇ。時代を感じさせます。 貴重な資料を有難うございました。
カート
MGCの9mmブローバック・カートは、3種類有って、一番長いエキストラロングがMP40用でそれよりも少し短い9mmロングが、MJQやSW44 オートに
使用されました。短い9mmショートは、ベレッタブローバック用でした。
紙 箱
なかなかに気合いが入った箱絵です。下の写真は拡大できますので自分で箱を作りたい人は印刷してどうぞ。チラシ
itijojo さん からチラシの写真を 拝借いたしました。有難うございます。
匿名様から珍しい取説のコピーを頂きました。
有難うございました。
クリック拡大します →
謝 辞
何人もの方々にご協力いただきページを書きました。オーナー様方、貴重なモデルを触らせていただき 有難うございました。見れば見るほど、六人部氏と小林氏の個性が同居している名品だと感じました。持っている人は大切にしてください。
追 記
スライドに打ち出しピンの跡がドバっと残っている個体を見せていただきました。
これはちょっと痛いですね。
でもまぁ、珍しいでしょうね。