写真00
写真01 なんという感激、あのボーチャード拳銃がモデルガン化されて手に取ることができるなんて。
マニアなら誰しも知っている市販された世界初のオートマチック拳銃です。
世の中が黒色火薬から無煙火薬へ移行していきリボルバーから自動拳銃への模索が行われていたころの製品です。 他には、こんな物が有った時代です。
 
まだ独自のマガジンを持つものはなく、クリップで装弾するものばかりでした。 ボーチャードは、グリップにマガジンを入れるという革命者だったのです。

起源

写真02 ボーチャード拳銃の機構はトグルアクションで、アイディア自体は古くはS&Wのボルカニック拳銃から存在していましたが
ハートフォードのパンフレットではウインチェスターのメカから発想を得たと書いてあります。 ボーチャード氏はドイツ人ですが16歳でアメリカに渡りエンジニアとしてウインチェスター社でも 働いていました。しかし英語のWikipedia や他の書籍ではマキシム機関銃のトグルアクションを 参考にしたと書いています。
 
とくにこの本には、詳しく書かれていて、1882年からブダペストのハンガリー銃器で働いていたころ 1888年にマキシム機関銃のデモンストレーションを見ています。おそらくこの時にトグルロックを 拳銃に活用できないかを考え始めたのではないでしょうか。 数年後ドイツ・ベルリンのルートビッヒ・ローベ社へ自身のアイディアを売り込みに行き、1893年特許、1894年 市販開始となります。

ローベ社

ローベさんは貧しい教師の息子から一代で巨大機械産業を築いた立派な方だったようです。 ウールの商売から始まりミシンの製造、蒸気機関の製造、ライフルの製造と会社を広げ マキシム機関銃やS&W ラシアンの製造も請け負っていました。
下記のページにたいへん珍しいローベ社のラシアンモデルが載っています。
 
http://www.horstheld.com/0-247.html
 
ボーチャードが製造される頃は初代ローベさんは亡くなっていて弟が社長でした。 ローベ社はやがて弾薬会社と合併し1896年にDWM社となりました。 そう、ルガー拳銃のトグルにあるDWMの花文字で有名です。 したがってボーチャード拳銃はローベ社で約1100丁、DWM社で2000丁製造されました。 ハートフォードのモデルガンは、ローベ社の初期のモデルを参考にしているのではないかと思われます。

ハートフォードモデルガン

写真03 ハートフォードのモデルガンには、ローベ社の刻印が入れられています。 バレルやレシーバーにはガンブルー色の塗装が施されています。
 
写真04 トグルなどの亜鉛パーツは、普通のガンブラックなので塗装の青色とは色合いが違います。 トグル上の刻印は、ドイツの特許番号です。 D.R.P.はDeutsches Reichspatent の略のようです。インターネットで75837番の図を ずいぶん探しましたが見つかりませんでした。書籍写真を参考に米国パテントの図で 偽造してみました。↓
 
パテント図 米国のパテントはGoogle patent から571260 で出てきます。
板バネをリベットで連結した初期のマガジンスプリングが特徴的ですね。

刻印を読む

写真05 あちこちに刻印がしっかり入っています。せっかくなので調べてみました。
また数字の172,28 というのはゲージ番号で7.65mm を表すものだそうです。
散弾銃で12番ゲージとかというあれで、英国的呼び方です。
ハートフォードのモデルガンには、個別のシリアル番号は入っていません。
 
亜鉛製トグル上の刻印は、たいへん綺麗に深く入っていますね。

出来栄え

写真07 塗装部分は、良く出来ていると思います。右手の又にあたる部分にすこしだけ スレが見られました。個体によって違うものと思います。
 
写真13 パーティングラインは、ほぼ消されていますがすこしだけ残っている部分もあります。
 
写真08 ネジの頭はメッキ処理が施されていてたいへん綺麗です。
 
写真09 亜鉛部分の仕上げは、かなり雑で完成を急いだのかもしれません。
特にリアサイトの部分は機械加工のエンドミル切削痕が激しいです。
なんたって、早く仕上げて売り抜かないとCAWさんが燃えながら追っかけてきていますから。
 
写真10 マガジンは素晴らしいですね。実物どうりです。プレス品の折り曲げ加工でできています。
ただし8発を入れるのは困難で7発が調子いいです。
パテント図にも書籍写真にもあるように、スプリングが前方の方が短いのが 本物ですが、ハートフォードのばね長は前後同じです。ここを切ってみるとマガジンの 具合が改善されるかもしれません。どなたか試してみてください・・・。
 
写真11 カートは、右の30モーゼル・ダミーカートよりも少し短いです。
本来、ボーチャード弾から30モーゼルが作られて形状互換ですので同じ大きさであるべきですが ハートフォードのカートは短いのでマガジンも実物より少し小さいのではないかと思います。
 
写真12 ライト社の30モーゼル・オールドタイプは、DWM社の製造刻印をコピーしていて ボーチャード弾と同じ刻印なのでアクセサリーに最高です。DMK の刻印がDWM 社製造を表します。
せっかく買ってきたのですが、ハートフォードのマガジンには入りませんでした。
 
写真14 マガジンが小さいということは、本体もいくらか小さいということです。
昔のモデルガンは、たいてい小さかったので大した問題でもありませんが、CAWは本物サイズに こだわって作っていますのでハートフォードの物よりも図面比較で9mm大きいようです。
プロト品や図面での比較なんて勝負になりませんので、はやく発売してガチンコ勝負をしてほしいものです。
 
写真24 新品状態で動作させているとトグルストッパのピンがするするっと抜けてきました。 ここはバネでテンションがかかっているのが本当なので組み立てミスかもしれません。 組みつけるのは、写真のようにバネをちゃんと溝に収めてからピンをさします。
 

ルガーと比較

写真15 ボーチャードを初めて触った時に思ったのは「ちっさ・・」。そう、大型なので売れ行きが悪かった とばかり思っていた「大型拳銃ボーチャード」は、全然大型ではなく思った以上に小さかったです。
ルガーと比べても小さいことがよく解ります。
同じ時代にモーゼルミリタリーは、良く売れたそうなのでボーチャードの人気のなさは、やはり 後ろが突き出たバランスの悪さだったのではないでしょうか?
 
写真16 ルガー拳銃は、ご存じのようにボーチャードの改良型です。
ボーチャードプロジェクトに参加し、ボーチャード弾を開発したルガー氏により完成されました。
こうやって並べるとまったく同じなことがよく解ります。
トグルの回転ローラーが無くなっているだけでほぼ同じですね。
 
写真17 シアのところもそっくり。
 
写真18 ボーチャードはルガーのようにカバーが無いのでディスコネクトの様子が一目でわかります。
ショートリコイルすることでトリガーとシアーの連結が絶たれます。これでトリガー引きっぱなしでも フルオートにはなりません。ルガーも同じ構造ですが、カバーに隠れていて見ることができません。
 
写真19 ボーチャード弾は弱装なので30モーゼル弾をボーチャードに使うと危険だといわれていますが ルガー拳銃製作時にレシーバーが強化されています。 写真矢印はマルシンのルガーですが、すこし実物と違う形ですがラグが付いている事が分かります。 ボーチャードの方は、ここが何もないのでフレームとの衝突面積が狭くて、強力弾を使うとクラックが入りそうです。
 
こんなところまで気づかせてくれるのは、やはり手にモデルガンを持つことでしかありえません。
あらためて歴史的な銃をモデルアップしてくれたハートフォードさんに感謝したいです。
 
写真20 マルシンのフレームに入れてみました。
なかなか格好いいのでびっくりです。やはり、ボーチャードの不恰好さは後ろの板バネ収納部分に あると理解できます。
 

アレンジ部分

写真21 モデルガンは、材質や価格の関係で実物とまったく同じに作られているわけではありません。
いくらかアレンジされている部分は必ずあるものです。
ハートフォードのボーチャードで気付いた部分を記しておきます。
まず、エキストラクタですが実物は左下の図のようにピン止めではなく 差し込んでいるだけです。初期のルガー拳銃も そうでした。ハートフォードでは、2個の部品に分割してピンで止めています。 微細な加工を避けたのではないでしょうか?
 
写真22 ここは見えないところで解らなかったのですが、トグルのローラーの回り止め部分です。 実物はここが鉄板プレス品で別部品になっていますが、ハートフォードでは一体型です。
他にメインの板バネが実物では2枚重ねでリベット止めですが、そこまで再現しなくてもいいでしょう。 以上の2点ともCAWでは再現するようです。ぜひ見てみたいです。
 

木箱

写真23 初回購入者限定で木箱が付いてきます。おまけにするんだからてっきりチープなものだと 思っていましたが、なかなか立派な木箱でびっくりしました。
磁石が埋め込まれていてパチンとふたが閉まり高級感があります。
ただし、実物のように取っ手が付いたカバン形式を望んでいた人はショックかもしれません。
 
こんなに立派な箱を只で付けるなんてハートフォードさんもCAWさんを相当意識しているのでしょう。大切な資源を何も同じモデルに割かなくてもいいような気もしますが、そこは人間のやることです。すでにCAWの社長に火がついていますのでこの戦いは楽しみです。  

おわりに

写真27 このページを書くに当たり友人の Schutze さんにずいぶん助けられました。
有難うございました。
 
ローベ社のローベ一族は1928年ころ会社を乗っ取られ財産も没収されたようです。 ユダヤ教徒であったためナチの台頭により迫害されました。
なんともメカメカしい初代自動拳銃を手にすることで、全然知らなかったローベさんの出生から ナチスの話まで知ることができ、改めて歴史的拳銃のモデルガン化に感謝したいと思います。
あとはどこかでFN 1900や南部式拳銃なんかを発売してくれませんかねぇ・・?
 

参考書籍等

写真25 ボーチャードのことなんてほとんど知らなかったのでこの本を購入しました。
PISTOLE PARABELLUM - History of the "Luger System"
by Joachim Grtz and Geoffrey L Sturgess
 
米国のアマゾンでは日本からは購入できなかったので下記ページにメールして買いました。
http://www.adamsguns.com/
エア便の送料込みで450ドルもしましたが、これは最高の本です。
今までいろいろ洋書を見てきましたがこんなに詳しく書かれたものは初めて見ました。
ものすごい情報量とフルカラー写真に圧倒されます。どこに何が書かれているかを読み解くだけでも たいへんです。ルガー研究家には、まさにお宝になること間違いなしです。ただ、こんなに詳しく知らなくてもいいや、と思う方はやめた方がいいです。ページを開いたら倒れます。
 
写真26 その他資料としていつものE−Bookを一つ買いました。
http://www.hlebooks.com/
 
こちらはお安くて700円くらいです。

 
DWM社のボーチャードのアップ写真が下記ページにたくさんあります。
写真は一括 zipでダウンロードできるようになっています。
 
http://www.forgottenweapons.com/early-automatic-pistols/borchardt-automatic-pistol/
 
こちらのページでは、ボーチャードからルガーまでマニュアル類が充実しています。
 
http://www.landofborchardt.com/

おまけ

写真28 このページ一枚目の写真に使用したローベ社のマニュアルの表紙です。A4で適当に作っていますが 実物サイズは134×205mmです。本物にはプロトタイプのストック用凸なし、短銃身の物ですが イラストを書き直していないのでDWM量産型です。
実物のように青い紙に印刷してください。
右の絵をクリックするとPDFファイルが開きます。
写真29  
 
 
DWM 生産のボーチャード弾の箱ラベルです。
封筒などのクラフト紙に印刷して適当な箱に張ってお楽しみください。


分解図のJPG が別窓で開きます。→  分解図へリンク

おまけビデオ


組み立ての時にピンが入りにくいのは、撃針のテンションがかかっているためです。
シアを押さえて撃針を落としてあげればテンションがないのでピンもするりと入ります。