↑写真の上が古い 4インチモデルで下が最近の 5インチモデルです。
バックが白いと写真では分かりませんが、バックが黒いと新型のブルー塗装がよく分かります。 新型の方はフレーム・ラグが別パーツで、HWブルーブラックフィニッシュと言われているものです。 旧型、新型としてこのページでは紹介したいと思います。結構中身が違っています。


ビクトリー・モデルって?

写真01
ビクトリーモデルって何でしょう、ハートフォードさんの箱にも説明が書いてあります。 それは第2次大戦中にS&W 社で生産されたミリタリー&ポリス(4th)のことで、 1940年頃から主に英国向けに製造していた分のシリアルナンバーが 1,000,000 に届いたため、 何か接頭語を付けてまた一から始めようというときに、戦時中でもあるしビクトリーの  V マークを付けて  V000001とシリアルを打ったことからビクトリーモデルと言われています(6ケタでシリアル管理していた)。

ハード的には、初期にはきれいなブルー仕上げだったものが、途中からパーカーライズドの荒い仕上げになりました。 口径は、イギリスなど向けは38S&W というエンフィールド拳銃と同じ物で、米軍向けは38スペシャルでした。


ご先祖様

写真02 1982年9月号 のGun 誌に新登場しています、CMCのプラスチック・モデルガンがハートフォードのご先祖様です。 このころは コクサイもM19を発売 していてガチンコ勝負になっています。当時は Gun 誌の表紙を見ても分かるように、 ダーティハリーの影響もありS&W マグナム・リボルバーがたいそう流行っていました。

CMCさんが廃業したのちに金型がハートフォードさんへ渡ったのでしょう。 下記のように、元のCMC の名残が見られます。


なごり

写真04 写真05 モデル19−4というのは、CMC 時代からの名残でしょう。またフレーム上部には金型変更の痕跡が見られます。
写真07 写真08 写真09

また、名残なのだかどうだかよく分かりませんが、ハンドのポッチがマグナム用です。コクサイはM19 の刻印があるのにポッチはありません。このポッチは実銃で強力な反動によりボルトが前進してシリンダがスイングアウトにならないようにボルトのロックを行うものです。ふつうは38SPL の銃には付いていないのではないでしょうか?また、面白いのですが右写真のようにコクサイのシリンダーは 357マグナム用に長いままです。M19 と同じ部品となっています。価格を抑えるためには仕方ないのでしょう。

こちら、ハンドにポッチの無いM10 の実銃写真 と、ポッチ有りの M19 の写真。


3社の違い

写真10 ついでにコクサイ、タナカ、ハートフォードさんの3個を比較してみました。写真上からコクサイとタナカさんは、後期のミリタリ・ポリスの外観でフロントサイトが切られていてサイドプレートも3スクリューで、ハンマー形状も違います。

パッと見て分かるのですが、HWS さんのみインナーフレームがありません。モデルガンの機構的には一番実物に近いのですが 、トイガンとして見れば重さと強度の面ではインナー組にかないません。このへんに設計思想の古さを感じます。真ん中のタナカさんの設計が一番新しいものだと思います。良く出来ています。


HWS 新旧の違い

1)仕上げ

写真11 新型、旧型の色の違いは一番上のとびら写真を見てもらえばわかるように、新型がブルー塗装されています。 また、写真のようにパーティングラインの処理も新型は、それなりに施されています。

2)フレームラグ

写真12 特筆すべきは、フレームラグが新型では別パーツとなっている点です。左下の実物写真のようにこの辺りは、けっこういろんな形があるようです。最終仕上げは人力かもしれませんね。

カウンターボアードであればフレームラグは一直線で構わないのですが、そうでなければシリンダーが後ろに下がらないブロック壁とカートがある時のリムの逃げを作らないとシリンダーがスイングアウトするときにカートのリムが引っ掛かってしまいます。


3)ハンドスプリング(ハンマ・ブロック)

写真13 おおっと、一番の特徴である旧型ハンドスプリングが新型では無くなってしまっています。写真左の新型サイドプレートには、プランジャのあるべきところに ピンを入れて塞いでいます。 すこし残念ですね。まぁ組み立てにくいですし、無理やりサイドプレートを入れると全然メカが動かなくなったりしますので、 面倒な部分でもあるのかもしれません。 ちなみに本物は こんな感じ です。

写真14 またプランジャ式ハンドスプリングが無くなった分、一般的な巻きスプリングでテンションをかけています。図の29番です。 写真の右上に新旧のトリガーを比べていますが、左側の新型に巻きスプリングが見られますが、右の旧型には スプリングがありません。

実際のパーツ形状は変わっているのですが、HWS の分解図は変更されていませんので、ハンドスプリングは図面には存在しません。


ハンマブロックのお話

1型

実銃のお話です。S&W ミリタリポリスのハンマーブロックは、3種類あります。1型がハートフォードさんの旧型がコピーしたものです。ただしHWS さんはハンドスプリングのみコピーしてありハンマーブロックは存在していません。なぜかというと1型、2型のハンマー ブロックはたいへん面倒な取り付け方法になっているからです。

写真16 右写真はフォーラムから取ってきた写真ですが、おそらく機能不全になっている2型のハンマーブロックとその修繕パーツを並べています。

右にある青矢印で示すハンマーブロックをサイドプレートに差し込んで、下の黄色矢印のようにポンチでカシメて固定しますので、ハンマーブロックは分解不能になります。 ハンマーブロックの動作は、ハンドが上昇してプランジャーが動くとそのカムで、すこしハンマーブロックが外側に動くようになっています。なんとも危うい機構です。実際に弾を撃たないモデルガンに、こんな面倒な仕組みは再現できません。

写真17 左の1型の特許図をよく見て作動を理解してください。

コルトの  ポジティブ・ロック やアイバー・ジョンソンの トランスファーバー・システム に比べるとS&W のハンマーブロックは、なんとも頼りないです。


2型

写真22 写真23

2型は、ハンドにサメのひれのような出っ張りを設けて、その部分が上昇してハンマーブロックを外側に押し付けるように 変更されています。ハンドのテンションはトリガーの中にある天秤のような機構で与えられています。 プランジャー式よりは良いかもしれません。


3型

写真25 写真24

第2次大戦中に米国海軍でミリタリ・ポリスの落下、発射事故が起こり水兵さんが一人亡くなったようです。 かなり高いところから落下したようですが、海軍から改善命令を受けたS&W 社は、1944年リバウンド・スライドと連動する 現在も使用されている方式に改めました。パテントは該当するものが無く、古いものが使用されたようです。

改修がなされたビクトリーモデルには、 V の前にS の刻印が打たれました。
セフティのS でしょうか?


参考ページ


メ カ

写真_26 メカは素晴らしく実物を再現しています。とくに5スクリューのキモでもあります、シリンダストップの  プランジャー をきちんと 造っています。タナカの1917ではダミーのスクリューでしたのでハートフォードさんには感激しました。 ここを再現しているのは、むかしのMGC コンバットマグナム以来ですね。 また、タナカさん同様にヨークを止めるネジは、他のスクリューと違う形状です。このような細かいところまできちんとできていると 本当に頭が下がります。

刻 印

写真_28 刻印はバレルにあるものが、でっかくって最近の流行では無いなぁと思わせます。全体に刻印は少なく残念なところです。 せめてフレーム上部に  US プロパティや検査官の G.H.D. などが欲しいところです。

写真_30 左の参考図のように実物には各所に刻印がありました。また、英国向け製品では、それにプラスして現地で刻印が追加されていました。

参考書籍は米国アマゾンで40ドルくらい。リボルバーからライフル、ショットガン、銃剣まで載っています、お勧めです。

Harrison's Notebook : U.S. Military Arms 


ハンマー形状のお話

写真_32 左からミリタリポリスのハンマー形状変更の年代順に並べています。ハートフォード、コクサイ金属、タナカ・ガスガンです。 いったい何年に変更になったのかは、はっきりと分からないのですが、S&W の広告から類推することは出来ます。

写真_33 写真_34 写真_35

1937年と1941年のカタログですが、右下にハンプ・バックハンマーという早撃ち用のオプションハンマーが見られます。 真ん中のマスターピースのカタログには、左下の解説に HIGH-SPEED ハンマーと書かれています。今までとハンマースパー形状が変わっています。この広告は1948年だそうです。このハンマースパーは、中型拳銃のみに用いられて、大型には右写真に見られるような 現在も使われている普通のスパーになっています。なお、ハイスピード・ハンマーのくにゃっとなったスパーはコレクターには フィッシュ・フック(釣り針?)Fish Hookと呼ばれているそうです。

写真_36 左は1949年と1952年の大型リボルバーのカタログですが、ハンマースパーが見事に変わっています。と、いうことは1950年くらいに 大型拳銃のスパーは変更されたのでしょう。

中型のフィッシュ・フックは1959年頃まで使用されていたようで1960年代には、大型と同じ形状のスパーに変更されたようです。


.38 S&W のお話

写真_38 写真はオーストラリアに向けレンドリース法にのっとり米国から供与されたものですが、バレルにある文字をよく読んでください。 飾り文字に挟まれて38 S.&W. CTG とあります。38S&W カートリッジということで、けっして38S&W スペシャルではありません。実は、S&W 社は1940年ごろから英国向けを作っていまして、それはS&W 38 口径でした。

写真_39 英国風で言えば  .380 British Revolver Mk I でしょう。のちにフルメタルのマークII になるカートですが、ケースは38S&W と同じなのです。といいますか、イギリス軍はウエブリー拳銃を小型化するときにシリンダーサイズもそのまま小さく考えたので455口径は38口径となり、当時既に存在した38S&W が選択されたのではないでしょうか?38SW 自体は  トップブレイクの38シングルアクション の弾ですので1876年登場の古い弾です。


写真_40 エンフィールドとウエブリーを比べると相似形だとよく分かります。右のウエブリーはエアコキのプアなものですが 大きさは実物大です。ダミーカートはマーク1と38SW です。左端に38スペシャルの空ケースを置いています。 全くケースサイズは違います。したがって38SW のシリンダーのミリポリには38スペシャルは入れられません。 チャンバーを掘りなおせば精度悪いが撃てるようです。
(写真のマルシン・エンフィールドのフロントサイトは段ボール自作です)

写真_41 左は試作に終わった英国向けのS&W ライトライフルで9mmパラのセミオート・カービン銃です。 英国政府からこの契約の前渡金を受けていたS&W は、試作結果が芳しくなく契約をキャンセルされ返金を迫られましたが、 当時経営は厳しく、ミリタリポリスの物品納入で返済を免れたのでした。レンドリース法もあり結果38/200 口径のミリポリは、60万丁ほども海外へ納入されました。38spl口径は25万丁ほど。


おわりに

写真_42 写真は左から2インチ、3,4,5,6インチのミリポリたちです。 世界で最も多く生産されたリボルバーらしいのにあまり詳しくは知りませんでした。 このたびビクトリーモデルを入手して、いろいろ調べると歴史が長いだけあって、とめどなく情報が湧いて出てきました。 なんとか絞ってページをまとめましたが、なかなかに奥は深かったです。楽しめました。ハートフォードさん 有難うございました。

おまけ分解図

victory 分解図

おまけ2

写真_44 写真_45

モデルガンと実物の写真のオマケです。